自転車が返ってきた

自転車がなくなってからの2日間。

妙な感覚だった。

 

 

明日の朝の出社、何時から行けばいいのかとか

昼飯食べにラーメン屋にでも、あ~、やめとくかとか

今日は銭湯でも行こうかな、あ~、でも徒歩か~とか。

 

 

別に寂しさなんてなかったけども、

確実に日常におけるデバフが発生してて、

行動が制限されるたびに、自転車のことを思い出してた。

恋しいよ・・・ルイン(自転車の名前)・・・。

 

 

もう返ってくるなんて思ってないので、

次の自転車を探し始めてた。

次は、盗まれにくそうなおんぼろな自転車を買おう。

そうだな、こんなの乗ったら乗ってる最中にぶっ壊れて怪我のリスクあるって盗み手が思っちゃうくらいおんぼろな自転車がいいだろうな。

 

 

もうそこまで決めていて、あとは中古ショップにいつ行くのかを決めるだけ。

そんなときだった。

 

 

ぽやぽや携帯触りながらそんなことを考えてたら

嫁から「これ違う人の?」と写真付きでメッセージ。

 

 

どうやら嫁は外出先から帰ってきて、

自分の自転車をとめがてら、

駐輪場からメッセージを送ってきてくれているようだった。

画像を確認してみたら・・・

 

 

「え、これ、僕の自転車ですやん・・・」

そこには僕の自転車らしきものがうつっていた。

 

 

でも、そんなわけない。

 

 

そんなことある?返すメリットって何?

何か罠でもしかけられている?

それとも自転車に特殊な素材が使われていて、そこだけ抜き取られて転売された?

 

 

よく分からないが、どうやらそこにあるらしい。

スペアキーを握りしめて急いで自転車のもとへ向かった。

このスペアキーで施錠解錠が出来れば、僕ので確定だ・・・。

 

 

冬でも部屋の中ではハンソデ半ズボン派なので、

アウターだけ羽織って部屋の扉を開けて外へ出た。

エレベーターを来るまでの時間を待てなくて、

非常階段をかけおりた。

 

 

駐輪場へつくと嫁がぴょんぴょん跳ねて

「こっち!」と言っていた。

嬉しそうである。

 

余談だがこの素直さが僕には合っている。

なぜなら僕はこの時

「近くに犯人が潜んでいるのでは?」とか、

「時限爆弾がしかけられてて、

 何かの拍子に爆発するのでは?」とか。

そんなことばかり考えていて、

案外心配性なのだ。釣り合いである。

 

 

ちなみに駐輪場の場所は転居してからこれまで

変わったことなんて勿論一度もないので、

こっち!と言う必要がないことは当時の僕の心境では口に出す余裕がなかったので、ここで言わせてほしい。

 

 

注意深く歩き、自転車のもとに辿り着いたら

ルイン(自転車の名前)がそこにある・・・。

立ち止まって、じっっと見る。

どう見ても、僕の自転車だ。

 

 

「鍵さして確かめたら?」と

嫁に促されるまま、握りしめた鍵を差し込む。

 

 

カチャッっという鍵の差し込みにより施錠される高めな音が

僕の自転車であることを理解(わか)らせてくれる・・・。

 

 

おおルイン!会いたかったよお前に!

5度自転車を盗まれてはじめての感情!

 

 

同じ空間にいた嫁と喜びを分かち合う。

日本はあたたかい国だ。

犯人ですらもあたたかい。

だって自転車を返してくれるからね。

 

 

ひとしきり喜んで、

明日の外出も自転車でいけるということに安堵を覚えた。

移動時間を短縮できるので、眠る時間が増える。

幸せなことだ。

 

 

上機嫌になったところで、

部屋に戻ることにした。

 

 

その場からスキップしながら立ち去ろうとしたら

「ちょっと!」と嫁に呼び止められる。

振り向くと、嫁の指さす先には僕の自転車と、その鍵。

 

 

どうやら刺しっぱなしだったらしい。

6度目の盗難の日もそう遠くないなこれは。